タクシー運転手という生き方

宮田一典: 霧島在住のタクシー運転手 趣味は麻雀観戦

インタビュアー(土屋耕二)


土屋 タクシーは何年くらいやっているんですか?

宮田 今年で12年目に入ります。 東日本大震災があった年の11月に入りました。

土屋 それまでは何をしてたんですか?

宮田 日本最後の日雇い労働「代行運転業」ですね。その前は求職者支援制度で月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講してました。

土屋 職業訓練って何ヶ月もあるわけじゃないですよね?

宮田 9ヶ月ありました。 さらにお金も借りられるんですよ。

土屋 そうなんですか?すごい制度ですね。

宮田 14年ぐらい前ですかね。 その前は東京の多摩地区で半導体工場の臨時社員として働いていたんですが、リーマンショックで2年半で切られました。

土屋 時代に翻弄されてますね。

宮田 鹿児島に帰ってきて、代行運転ドライバーやってタクシードライバーって感じですね。そこの代行の社長が、必要だからって二種免許を取らせてくれたんですよ。けど、いろいろあって代行の会社は閉めることになり、タクシーに乗ってみようかなと。

土屋 代行は二人で動くと思いますが、どちらかが二種免許をもっていたらいいんですか?

宮田 どちらかが二種免許を持ってればいいです。

土屋 代行とタクシーは全然違うんですか?

宮田 代行の方が厳しいですよ。既に酔っ払ったお客様の車を運転するわけだから。たまにいるんですよ、 運転の仕方にいろいろと細かいことを言ってくる人が。ギアを変えるタイミングがズレるとキレるとか・・・あと、土足厳禁車は脱いだ靴を置く所が無くて困りました。

土屋 今回のインタビューではいろいろ資料を用意してくれていますが、まずこれは鹿児島の南日本新聞に二日連続で一面トップで「タクシーがいない鹿児島」という特集記事が掲載されました。記事によると決してコロナがあけてもタクシー業界は楽観的な状況にはない。要は運転手がすごく不足しているという内容でした。県のタクシー協会によるとこの3年間で720人も運転手が減っており全体で2500人くらいだという事でした。
会社は何人くらい働いていらっしゃるんですか?

宮田 今は約25人です。鹿児島市の天文館では数年前は客待ちのタクシーが行列でしたが、今ではタクシー待ちの人たちで列ができています。

土屋 こちらの写真はなんですか? 

宮田 コロナの蔓延防止の時に勤務時間が短くなりました。そのときに「がんばってください」ってことで、スナックバー『ちづる』のママさんが、弁当を無料で置いていったときの写真です。弁当を10個くらい各タクシー会社に配っていたんですよ。一度飲みに行ったことがあるんですけど、まだ恩返しで飲みに行ってないんで、今度行きます!山形屋近くの店舗ビルの1階にあって、その向かいが『アラビアンナイト』って言うカラオケパブですね。カラオケパブのママさんは可愛くて、酔ったらキス魔になるって噂です。(笑)そのママの娘さん達もメチャ可愛いくて、キャストとして働いています。めちゃくちゃ人気があって結構ストーカー被害とかにあってるらしいです。

土屋 (笑)

宮田 その2階が私の後輩がやってる『ストルツ』ってドイツ語で誇りを意味する名前のバーで、カラオケパブの可愛い娘さん達も仕事が終わって飲みに来ます。その時間帯を見計らって、私も飲みに行きます。

土屋 (笑)今の話の9割ぐらいはタクシーとは関係ないですよね。 そもそも、その『ちづる』の宣伝にもなってないですしね。

宮田 ちなみにこれが弁当の中身で、最近は予約を取って弁当も売ってるらしいです。

土屋 えぇ!?そうなの?(笑)

宮田 宣伝します『スナックバーちづる』 https://chiduru.jp/

土屋 すごいホームページですね。気を取り直して新聞記事に戻りますと、こちらの記事は街のバスがなくなっている状況で、ワゴンタクシーをバスの代わりにしようという記事です。こちらの料金はどうなっているんですか? 

宮田 200円です。障がい者の方とお子様は100円です。

土屋 結構利用されているんですか?

宮田 この前は往復で10人ぐらいでした。 月・水・金に1日あたり4回運行しています。

土屋 これを運転することもあるんですか?
宮田 2ヶ月に1回ぐらいですね。体調が悪い時には断ります。

土屋 体調悪いと断ります?(笑)ちょっとよくわかんないですけど、そんなに過酷なんですか?

宮田 半日、縛られます。8時から13時まではずっと乗らないといけないので。

土屋 普段とは違うんですか?

宮田 違いますね。休みたい時は回送にして、家も近いから仕事中に帰ります。帰って(手でグラスをもつしぐさをして)一杯やってます。

土屋 (笑)!!!

宮田 ソフトドリンクですよ!!!

土屋 安心したわ!!(笑)その冷静さはあったんだね。タクシーは自分たちが走っただけ給料もらえるわけじゃないですか。この乗り合いバスはどうなんですか?

宮田 これは8時から13時までやって営業売上3万円もらえます。営業収入は1万3千円。

土屋 けっこういいですね。俺もしたい。さっき体調がどうのこうのって言ってましたが、 過酷ってこと?

宮田 いつもマイペースに働きたいっていうのが強いですね。少しでも体調が悪いとやりたくない。うちの会社はそれでいいよって言ってくれて、働きやすいですね。

土屋 市民の方たちは喜んでいる感じですか?

宮田 「悪くはない」という感じですかね

土屋 ここ鹿屋でも路線バスはほんと利用者少ないですよね。

宮田 バスは10%しか乗らないところも100%近く乗るところも同じ大型バスを使ってるらしいんですけど 、無駄じゃないですかね?

土屋 このように普通のタクシー以外のお仕事は結構あるんですか?

 会社で伝説になってる「鹿児島空港から大阪まで」

宮田 ありますね。ジャンボタクシーでパイロットさんやCAさんをホテルと空港間で送迎したりします。
 一度だけ、飛行機が欠航になってどうしても大阪までお客様を送らないといけないことがありました。10時間ぐらいかかるんですが、空港会社が金を払って大阪までお送りしました。

土屋 それはすごいですね。

宮田 料金メーターの写真を撮ってましたね。「すごいね、すごいね」って。28万円ぐらいかかりました。

土屋 28万円!あれって個人では半分くらいもらえるんですか?

宮田 うちは小さい会社なので40%位ですね。江戸時代の年貢の四公六民の逆ですね。

土屋 よくわからないけど。(笑)
 記事で紹介されていた78歳男性運転手の方が、コロナに怯えながら業務するよりも、年金で細々と暮らしていくことにした。というコメントがありました。記事によると元々年金の足しに働く高齢者が多かったということで、運転手の平均年齢が64.6歳ということでした。若い人もコロナで給料が激減しちゃって、他の業種に移ったりとか。記事の運転手の方は78歳ということですが、タクシーは高齢者でも働ける職場なんですか?

宮田 これはどこの世界も同じだと思うんですけど、養わなければならない扶養家族が多い人は死に物狂いで稼いでますよ。でも、私みたいな独り者は全然稼いでないです。たくさん稼いでもストレス発散で風俗に行って使うくらいだし、本を読む時間とか動画配信を観る時間があればいいですね。

土屋 なるほど。(笑)けど、わかるような気もします。ぼくもそれに近い考えですね。風俗は行かないけどね。

宮田 もちろん最低限のノルマはありますけどね。コロナが流行る前までは泊まりで24時間拘束されて、休憩は4時間ぐらいでした。

土屋 えぇ!?‌24‌時間で4時間しか休憩ないの?

宮田 タクシーは特殊なんですよ。お客様を待つ時間は労働時間に入らないです。休憩は2時間くらい増えて楽になりましたけどね。(※ 後で調べたところ、客待ち時間は手待ち時間として労働時間にあたるそうです )

土屋 鹿児島では個人を含めてタクシー事業者はこの10年で499から339に減少。台数も1000台近く減って今3112台あるらしいですね。鹿児島市と鹿児島空港、川薩、鹿屋などは需要に対してタクシーの供給が過剰であるということで、「準特定地域」に指定されているんですが、それは運転手が足りないという状況を想定していなかった制度じゃないかとの指摘もあります。ある会社は昨年12月だけで1万件以上の配車依頼を断ったと語っています。理想は1台に対して運転手2人以上欲しいが 今は1台に1人が続いているというようなことでした。

宮田 確かに今は1人に対して1台が普通なんですが、最近事故が多くて、この前は鹿にぶつかった車が修理中で足りてないです。

土屋 鹿!?出るんだ鹿。あと記事では二種免許の取得が緩和されたらしいですね。

宮田 21歳以上が19歳以上に緩和されました。私は42歳で取得しました。自動車学校での一種免許所得費用は25万円くらいでしたが、二種免許はさらに28万円くらいでしたね。

土屋 二種免許はやっぱり一種免許とは違いがあるんですか?

宮田 一種免許と違うのは、駐停車禁止のところで教官が急に「止まって!」と言ってきて、本当に止まるかとか。あとは、今まで優しかった教官が急にガミガミ言い出すんですよ。キレるかどうか見てるんじゃないかな。

土屋 ほんとかよ!?(笑)

宮田 急に厳しくなるんですよ、びっくりしますよね。           

宮田 自動車学校の話でいうと、30年前レンタルビデオ店に行ったとき、自動車免許証を見せると「有効期間が過ぎております」と。急いで警察署まで行くと、「有効期間が6ヶ月を超えているので失効です」と言われ、また一から自動車学校へ通いました。全部で80万円も使ってしまいました。

土屋 それは大変でしたね。(笑)二種免許はどれくらいの期間で取れるのですか?

宮田 だいたい1ヶ月くらいだと思います。

土屋 数年前に、ホリエモンが大阪のタクシー運転手と揉めたことをYouTubeでライブ配信していたことがありました。あるいは酔っ払いの客がタクシーの後部座席を蹴るなど、たまにニュースになることがありますが、そういう経験はありますか?

宮田 私の場合はあまりありません。とはいえ、お客様が酔っ払っているといろんなことが起こります。例えば、むかし20歳くらいの男性のお客様を飲み屋の前から乗せたことがあります。ずっと女の子に電話をしていて、「今から行くから」と言っていました。タクシーもそこに向かってくれと。しかし、その相手の家の前まで言って、最後は断られてしまいました。そして元の場所に戻るように言われたんです。戻ったときにはお客様は寝ていまして、「お客様、お客様」と声をかけると、突然目を開けて「ありがとう」と言われました。「2500円です」と伝えたら、「そんな高いはずないだろう!!」って。

土屋 (笑)

宮田 ボブ・サップさんをお乗せしたこともあります。彼の荷物を持った時、それが非常に重くて約30キロありました。トレーニング機材でも入っていたんでしょう。とても印象に残っています。また、勝新太郎の奥さん、中村玉緒さんを運んだことがあります。非常に優しい方でした。

土屋 労働環境のことをお聞きします。タクシーの方は休憩中によく寝ている印象がありますが・・。

宮田 睡眠不足は大変危険です。飲酒運転はとても厳しく取り締まられていますよね。福岡で飲酒運転が原因で橋の上で家族4人が巻き込まれる事故がありました。飲酒運転の罰金も100万円、酒気帯びだと50万円だったと思いますが、とにかく飲酒運転には厳しくなりました。ですが、実際には飲酒で事故を起こす人はそんなに多くないと思います。飲酒や過労で眠くなって寝てしまうことです。前を向いてワッパを持ってりゃ、重大事故は防げると思います。

土屋 眠くなることに対してなにか対策などはありますか?

宮田 眠たくなったら車を停め、10分でも仮眠を取る!!

土屋 さて、最後に給料についてですが、全国のタクシードライバーの平均年収は360万円で、全産業の平均は496万円です。

宮田 運転手不足により、1日平均営業売上3万円、営業収入1万3千円、コロナ前に比べ6千円は増えました。運転手が少ないため、花番( 駅・空港などタクシーの待機場所からタクシー乗り場まで順番に並び、一番先頭になった車両のこと)が早く回ってくるからです。中には鹿児島空港専属で月に営業売上100万円以上稼いだ人もいるそうです。

土屋 タクシーの運転手は皆同じ条件ですよね。売上が多い人は何が違うのですか?やっぱりやる気ですか?

宮田 やる気はありますね。ただ、タクシードライバーの良いところは自分のペースで働けるところです。ここだけの話、休める場所で休んだりすることもできます。うちの会社では隠語で「桜島」っていうのがあります。サボっている人のことを桜島待機と呼んでます。
ある先輩はお客様が窓を開けたらヘビが出てきたそうで、お客様が会社に電話して山でサボっていたことがバレました。

土屋 (笑)

宮田 今は配車アプリが普及しているので、会社からは休んでいることが把握されているんですが、うちの会社は寛容で何も言われません。月のノルマを達成すれば大丈夫です。しかも月のノルマは昔と同じで、従業員が以前より10人以上少ないので、ノルマ達成はすぐにできます。

土屋 なるほど。

宮田 忙しいのも考えどころで、今でも朝一で新聞を持って行きますが、昔は一日あればすべて読めたのですが、今は忙しくて一面を読むのも大変です。

土屋 最後に、タクシー運転手という仕事の魅力をあらためてお聞かせください。

宮田 そうですね。人によると思いますが、金銭的な面でも時間的な面でも自分のペースで働けることですね。タクシーの仕事のいいところの一つは空き時間が比較的多くて自由に本を読んだり動画を見たりできるところですね。土屋さんの動画も休憩中や回送時によく聞いてます。

土屋 ありがとうございます。

宮田 あとは、お客様との交流。やはりお客様に感謝されると嬉しいですね。この前は4階の市営住宅で、エレベーターもない建物に荷物をサービスで運んであげました。とても感謝されました。お客様も基本的にいい方ばかりなので、楽しく働いています。もちろんタクシー運転手によって違いはあるとは思いますが。

土屋 そうですね。ぼくも聞いていて宮田さんの話が普遍的なものなのか不安になりましたが(笑)、とても楽しかったです。いろいろと知らない世界の話が聞けてよかったです。ありがとうございました。

やうやう10・11号掲載
文・やうやう編集部

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