南大隅町町長選挙が行われる。

 南大隅町町長選挙が行われる。

 鹿児島県の南大隅町は人口が五八〇〇人ほどで、本土最南端の佐多岬を有し、錦江湾と太平洋に挟まれた自然豊かな町だ。この南大隅町は原子力発電所の最終処分場の誘致のうわさがずっと囁かれていた町でもある。

 二〇一三年の町長選挙では、当時最終処分場誘致反対を公約に掲げていた肥後隆志氏の応援に山本太郎参議院議員も駆け付けるなど、東日本大震災の直後というのもあってか、県内だけではなく全国的にも話題になっていた。

 その後、二〇〇九年から二一年まで町長をつとめた森田俊彦町長に、ある疑惑が発覚した。TBSなどの報道によると、森田氏は処分場誘致に向けた関係先との折衝などを一任する委任状を書いており、現金提供や過度な接待も受けていたのだ。(報道では森田氏は「委任状は歴代の町長がみんな書いていたから」と言われたから書いただけだとし、委任状と現金の関係について森田氏は会見で「関係はない」と主張。)

 さらには二〇一七年の町長選挙には、誘致派から後押しをうけて東京からやってきた田中けい氏が「最終処分場を誘致」するという公約を堂々と掲げて立候補。(大差で破れる。)

 東日本大震災から十五年ちかくなろうとする現在、全国的な報道も特にはなくなったこの町長選挙は、その間もずっと最終処分場の問題で揺れ続けてきた選挙なのだ。

 本誌やうやうでは、二〇二一年八月発行のやうやう六号において「南大隅町町長選挙」の特集をくみ、この町の選挙について注目してきた。特集を読んだ田中けい氏と連絡を取ることができて、編集長の土屋はこれまで彼と様々な対話を積み重ねてきた。

 詳しくは下記の特集記事や、動画をご覧いただきたいが、今回の選挙にも立候補している田中氏は、前回とは違ってかなりの手ごたえを感じているようだ。もし、田中氏が当選するようなこととなれば、(そのこと事態の評価はさておき)南大隅町だけではなく、鹿児島の政治にとっても新しい動きになるだろう。

やうやう編集長 土屋耕二

南大隅町町長選挙 告示日 令和7年4月8日 (火曜日)


やうやう6号(2021年8月発行)
特集 南大隅町町長選挙

 
今回の特集は南大町長選挙です。この選挙は核の最終処分場の誘致を争点に2021年の4月に行われました。「やうやう」は大隅を中心に発行しているフリーペーパーですが、南大隅町だけでなく、自分たちの町で今起こっていること、そしてこの先起こることを考える上で貴重な座談会になったと思っています。とても長い内容ですが、どうぞお読みください。

〈インタビュアー土屋〉

土屋  今日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。


  土屋さんとは10年以上の友人ですね。今回の選挙で、座談会をしたいと相談をうけました。たまたま「政策を聴く会」で若い人といろいろと話せたので、それなら呼ぼうということで今夜は声をかけました。雪丸くんと前田くんです。


雪丸、前田  よろしくお願いします。


土屋  このあとお一人遅れて参加してくれるようですが、三人は東さんが主催した町長・町議選挙の「政策を聞く会」を手伝ってくれた方たちなのですよね。「政策を聞く会」について少しお話ください。


  僕は26歳で南大隅町に帰ってきて、すぐに町会議員選挙と町長選挙があったんだけど、名前を知っているのは町長ぐらいで、町会議員になるとほとんど知らない人でね。しかもその頃の選挙のやり方っていうのは、掲示板に黒い文字で名前だけが書かれているだけのような選出方法で、せめて顔と名前ぐらいは一致したいよねって思っていて、それをみんなに話すと、いやもうそんなもんだよ、と。誰かに頼まれたら名前を書くだけだって言うわけ。 4年に1回の選挙で、その後2回くらい選挙があって、どうにかならないものかと役場に相談しても、なかなか候補者のことを知るということが実現しなかった。帰ってきて15年くらいたってやっと協力する人も出てきて、自分も商工会議所青年部だったから、今回選挙にでた水谷さんとか、元町長の森田さん達と一緒に、「政策を聴く会」を開催しました。


土屋  最初の「政策を聞く会」はどんな様子だったのですか?若い候補者が出るのは想像できますが、当時の年配者の議員とかも参加してくれるのですか?


  一回目は全員参加しました。が、第三回目くらいから、「政策を聴く会」は一部の人たちが勝手に企てているだけで、全員が出る義務はない」という人たちが出てきて、参加しない人がいました。今回も何人か不参加でした。


前田  今回、はじめて参加して思いましたが、こういうものは行政が主体となって開催してほしいですね。絶対にあるべきだし、こんな小さい町だからこそやるべきだと自分は思います。できれば、もっと役場の若い人とかもみんなで聞きに来てほしかったですね。

佐多辺塚から
佐多辺塚から


  今回は雪丸さんや前田さん達にも協力をもらえて、また、Y o u T u b e を
使って少しでも多くの人たちに見てもらおうと実現できたので、そういう意味では満足しています。ただ、さっきも言ったけど、実際の話まだまだ選挙に与える影響は少ないようだ。ただ、これをやっていくことで、ちゃんとした人を選んでもらいたいなっていう思いがあった。正直いうと、こんなの無駄なのかなぁと思ってやめようかとも思ったときもありました。けど、今回は町長選挙もあるし、今回を最後にしようと思って実施しました。本当だったら商工会青年部に引継ぎをお願いしたかったけど、なかなかうまくいかない。自分たちがこれからこの町を引っ張っていかないといけないし、子供たちのことも考えないといけないんだよと思うんだけどね・・。今回、こうやって何人かの若い人たちにお願いできてよかったと思う。ほんの少しだけど、次世代に引継ぎできるのかなぁと思っている。


土屋  今の話をきいて、田舎特有のこういう討論会には行くなという閉鎖性があるのはすごくわかるし、想像通りなのですけど、ひとつわからないことがあります。今回の投票率も80%近いですよね?選挙に関心なければ投票にも行かないと思うのですが、どうですか?


  田舎では当たり前かな。


土屋  だけど80%ってすごくないですか?鹿屋市長選なんか、前回は候補者いなくて無投票での現職当選で、その前の投票率は52%ですよ。


前田  選挙が選挙じゃないですからこっちは。行けない人はきっと老人ホームなんかに入ってて行けない人で、よっぽどのことがないかぎり政策で投票行動を変える人はあまりいないです。


  そう。ある意味、100%なのよ。


土屋  関心がないけど、しぶしぶって感じですか?


  いや、関心はあるのよ、わが集落の代表の誰々に投票にいくという感じでね。町会議員というのはそれでいいと思うのよ。ただ、地方全体の大きな政策が争点になるときはそれでいいのかな?とは思うよね。なにこれ?こんな法案が通
るの?っていうのがあるよ。田舎の選挙ってのは親戚が多ければ通るっていうのが当たり前。


ここで遅れてきたもう一人の方が登場・・


  今回、「政策を聴く会」をお手伝いしますって言いだしっぺの肥後くんです。


土屋  え!?肥後さんってもしかして、何年か前に町長選挙に出た肥後さんとは関係ないですよね?(笑)


肥後  そうです。息子です。


土屋  えぇぇ!?そうなんですか??冗談で言ったのに!!(笑)


  2013年、2017年の町長選挙に出た肥後さんの息子さんで、彼自身も2017年の町会議員選挙に出て、次点で惜しくも落選した肥後くんです。


土屋  そうですか、今回僕は南大隅町についていろいろと調べたので、びっくりでした。(笑)


雪丸  肥後さんのお父さんは今回も出るかと思っていたけどね。


土屋  全員そろったところで、改めて話しますと、南大隅町の町長選挙は最終処分場が争点になっていたので隣の鹿屋市としても、 気にはなっていました。ただ、僕の個人的な印象で言えば、8年前はそれこそ肥後さんのお父さんの応援でしたけど、山本太郎とかも来たりして、鹿屋市でも関心があった印象です。しかし今回の鹿屋市は、その盛り上り、関心は正直言って僕はなかったと思います。ですので、今回の特集で現地ではどうだったのか、あるいは地元の人たちはどう考えたのかを文字にしたいなと思っています。


肥後  処分場誘致に関して、鹿屋市ではそれほど関心がなかったということですか?


土屋  そうですね。あくまでも私の印象ですが、正直なところほとんどの人は関心がなかったんじゃないかと。


肥後  そうですか・・。

土屋  まだ8年前 は、全国規模でいろいろ報道もありました。それこそTBS「報道特集」で当時の森田町長が最終処分場の建設について、Xさんに対して全面的な委任状を書いたと報道され、民主党の細野豪志環境大臣に会いに行ったというスクープが話題になりました。あの頃の、関心、危機感などはどんどんなくなっているというのが正直なところじゃないでしょうか。


肥後  確かに。記憶から消えていますしね。僕も、みんなの本音を逆に知りたいですね。


我々もかなり怒られた


土屋  そもそもの質問ですけど、地元では、今回の選挙では最終処分場っていうのは話題になるのですか?というのは、僕じゃないと言いにくいかもしれないですけど、あの報道特集の動画は2013年ですけど、興味あったら皆さん見てください。森田さんは環境大臣や 官房長官、仙谷さんとかとも会ったりしています。しかし、その直後の選挙では最終処分場には「反対」を表明して、それこそ肥後さんのお父さんと戦って、圧勝しているんですよね。
そのあとに、報道特集は森田さんに会いに行き、南大隅町での処分場の誘致については全面的にXさんにお任せしますという委任状を見せて「これはあなたの字ですよね?」「はい。よく似ていますね。」「書いたかもしれませんけど記憶にありません。」というような有耶無耶に返答します。


肥後  そんな映像が残っているんですか?


土屋  YouTube が削除されてなければ残っています。そして、森田さんの前の町長税所さんもその報道特集には出ていて「最終処分場建設は地元の建設業としてはもう夢の夢のようなもので、まさに雲上の夢なんだ。」というのです。森田さんは最後になんて言うかというと、「町長になったときに、これまで歴代の町長はみんな委任状にサインしてきたんだ。だから、お前も書けと言われて書きました。だから私も書きました。」と言うのです。
これは、かなり根が深い問題で、僕は森田さんが委任状を書いたけど、反対だというのも意外と本音なのかな?とも思いました。


  それに関してはわかりません。本人に直接聞いてみないことには。(笑)


土屋  本音じゃない?(笑)


  本音なのかもしれないけど、これまでそういう関係者の方々と関わってきてるから、それはなかなかできない状態なのかも。


土屋  僕は森田さんの擁護するつもりはないんですが、同情する部分もあって、もう自分の意思や考えでどうにかできる話じゃないっていうことなのかなぁと思いました。


  2009年、森田さんが町長選挙に出馬すると決めたとき、商工会青年部の数名に「この町の経済の立て直しとして、原発の最終処分場の誘致という選択も考えている」ということを言っていた。そのときは自分たちも、これだけ過疎も進んでいることだし・・・ということで原発に関してはそこまで深く考えずに応援した。 ただ、そのときに肥後くんのお父さんだけは、原発関係の知識もいろいろ勉強している人で、この町をよくするのは農業を中心とした一次産業しかないとずっと言っていた。そんな肥後さんだから、森田さんにしても、我々にしても、原発を推進して立候補するというのは、当然反対されると思い、肥後さんには黙っていた。肥後さんはそのことは知らないから、若い森田さんが出るならと一回目の2009年の選挙では一緒に応援した。 しかし、2011年に東日本大震災の3.11が起こり、この話が明るみになると、肥後さんからは「どういうことだ?」となり、我々もかなり怒られたのよ。


土屋  へぇー。すごい話ですね。


  怒られるのも、当たり前のことなんだけどね。我々もそうだけど、その当時は原発の最終処分誘致もありかな?という意識だった。自分たちは原発がそこまで危ないものなんて詳しい知識も薄かったし、3・11がおこる前の話だったから早く手を上げないと補助金ももらえないっていう話だった。
そうした経緯で、肥後さんはその次の選挙では、森田さんに対して対抗馬として選挙に出たわけです。


肥後  森田さんは親戚でもあるのですよ。


土屋  なんと!


肥後  全国もそうですけど、原発や最終処分場の問題については、この数年で僕たちの考え方はかなり変わってきていると思います。


雪丸  かなり変わったよね。


土屋  それは何年ぐらいですか?やっぱり震災のあとですか?


肥後  震災の後っていうのはやっぱありますよね。やっぱり生き方だったり、暮らし方っていうところから見直さなきゃいけないんだっていう。


雪丸  震災があって、原発がきたらほら見ろ。こんなひどいことになるんだぞって感じだったよね。


  昔はゴールドビーチでもNUMO(原子力発電環境整備機構)の協賛で安全ですってイベントとかもやってたもんね。


前田  どうしても国の話に反対するのであれば、これは僕たちの甘えかもしれないけど、森田さんや東さんたちの上の世代が一丸となって反対を表明してくれないと若い世代もついてはいけないと思う。


土屋  前田さんの印象では、年配の人たちは、この問題に関して賛成、反対をはっきり言わないという印象なのですか?逆に言えば、若い人たちはかなり反対なのですか?


一同  そうでもないですね・・。


前田  ぼくも反対派だったんですけど、説明会に行ったんですよ。それで、賛成派にはなってないけど、慎重派にはなったというのが正直なところです。


土屋  なるほど。僕はここに賛成派がいても全然いいと思っています。ひとつ聞きたいのですが、どういうところで、反対派から慎重派に考えが変わったのですか?


前田  本当は危険ではなく、お金は町に入ってくる、そうだったら検討には値するのではと思いました。別に、選挙前にあった推進派の説明会も良いことしか言っていないのもわかりますし、その先生も危険があるとは言わないんですよ。ただ、可能なかぎり大丈夫に近いというような言い方をするんですよ。

ゴールドビーチ大浜からの夕焼けの開聞岳
ゴールドビーチ大浜からの夕焼けの開聞岳


土屋  ちなみにその説明会はどこがするのですか?


  推進派が開催してて、元をただせばNUMO関連じゃないかと思います。


土屋  いや今の話でいけば、若い人でもやっぱり賛成というか、いいんじゃないかという人たちはいるのですね。


雪丸  いると思います。


  自分もそうだけど、一方的に反対なら、なにがなんでも反対というのはどうかな?と思う。反対なら、賛成派の意見もよく聞いてみる。逆もそうあるべきだと思う。しかし、実際には表でそういうやり取りはなく、町民からは見えない裏で話が進んでいる。これが今までの流れ。


土屋  そうですね。それこそ委任状の話がそうですね。


前田  昔住んでいた、薩摩川内の印象は「反対」って言えない。
結局もうほとんど九電絡みとかだから、居酒屋とかホテルとか、3ヶ月、半年とかの期間で中央から整備に来たりして経済的に潤ってますからね。原発様々。市長選なんかも反対派は全く歯が立たない。あれが止まってしまうと、もうまず町の機能がストップしてしまうから。できてしまえば危険とか危険じゃないとか関係なくもうそこに依存しないといけない街になるのは確実というのが僕の印象ですね。


肥後  僕は、当時いろいろとあって町議選に出ることになって、そのときも「政策を聞く会」を東さんが開いていたので、知りたいわけです。そこで原発の最終処分場を持ってくることには僕なりに勉強したり、調べたりしたんですよ。
そのときに思ったのは、こんな田舎の一議員が考えることではないし、決められることではないと結論にいたったんです。それと同時に、親父の意見も関係なく、僕は僕個人として反対だと言いました。
けど、最終処分場や選挙のことを考えるとなんか本質的なことがそのことに引きずられて、ずれていくように感じました。


土屋  肥後さんのおっしゃることはすごくわかります。さっき前田さんも言っていたように、例えば、商売をしているとそこには逡巡というか、反対か賛成かなんて、簡単に言い切れることではないですからね。それなのに反対したのか、賛成したのかで、地域の分断が進んじゃうことが、このような迷惑施設の問題ではあると思います。
雪丸さんは今回の町長・町議選挙は思うところはあったのですか?


雪丸  今回に関しては結構勉強をしました。選挙期間中も肥後くんとも深いところまでかなり話し合いをして、 その前の選挙のときはアレルギー的に反原発って言っていたのもありました。だけど今回は、推進派がいるってことは推進する人
たちなりの言い分があるんだろうということで、そういう人たちの意見を聞いてみたいと。 そこで、NUMOの主催で、先生を東京から呼んだ二時間の勉強会があったんですが、毎週末に、5,6回かな?そこにも参加しました。


肥後  その勉強会は僕も興味本位でついていったんですよ。行ったら会場で誰か見張ってる人がいたんですね。そしたら、すぐにうちの親父から電話がかかってきました。(笑)


一同  (笑)


前田  これが田舎なんですよ。意見も聞かないとわからないじゃないですか。


  それでいうと、数年前に反対派の運動で説明会があり僕も参加しました。そこである人に言われたのは、「中立派っていうのは、結局は推進派だからな」って。反対する人たちは賛成する人の言うことに対して聞く耳を持たないよね。


前田  自分も反対したいけど、反対したときに町の起爆剤はなに?って考えたときに、反対派の人たちは、それがない。それがあれば賛成派に対抗できるけど、それがないのに、 国の事業に勝てるのかな?って思う。


うちの子供も風呂場で歌ってたもん。(笑)


土屋  すみません。雪丸さんの話の途中で、そのNUMOの勉強会ですよね。原子力発電環境整備機構。その勉強会の雰囲気はどんな感じなのですか?


雪丸  僕としては、両方の意見を聞いてみようっていう感じの人を何人か誘ったんですけど、言われたのは、とにかく行くなと。行ったら推進派として見られるぞ。と。


土屋  なるほど


雪丸  けど、僕はそういう感じじゃないから。同じような感覚を持っている人たちに声をかけて行ったのです。実際に行ってみると、周りの目が怖くてなのか来ている人は、建設業の人たちばっかりでしたね。


  みんなは田中けいさんの得票率15% というのはどう思った?推進している田中けいさんの得票率。田中さんが687票で、全体の15%

佐多岬灯台
佐多岬灯台


肥後  こういうことを言うと角が立つけど、高齢の人たちは投票に熱心じゃないですか?そして、それは政策とかではなくて、候補者が頑張る姿とかで投票するから。15%に関しては少ないと思いました。もっと行くだろうと。


雪丸  僕も少ないと思いました。もうちょっといくかなと思ったんすけど、少なかったですね。


土屋  反対を表明していた石畑さんも、本当は推進派だという情報もありますから、推進派の票が割れた可能性もありますけどね。


肥後  詳しいですね。よく知ってますね。(笑)


土屋  今回の座談会のためにありとあらゆる方面から情報を集めましたから。(笑)


肥後  あるとき、田中けいさんの家の庭に処分場を作ったらどうですかね?って言ったら、苦笑いしてました。(笑)


土屋  (笑)でしょうね。こういう反対の意見が一番嫌だわって思ってるでしょうね。(笑)


肥後  真面目な話、海の底はだめなんですか?って聞いたら、日本海かどこかにロシアが埋めて問題になったって言ってました。


  田中さんたちの活動は勢いはあったよね。


土屋  なんか、すごい人に音楽の作曲もしてもらって選挙カーで流しながら活動していたみたいですね。


前田  子供たちがそれを聞いて覚えちゃうから、自然と歌っちゃうんですよ。そしたら、親は「そんな歌を歌うんじゃない!!」って怒ったりしてましたよ。(笑)


土屋  (笑)それはいいね!!


肥後  うちの子供も風呂場で歌ってたもん。(笑)


一同  (笑)


雪丸  僕は田中さんが当選したとしても、現実的にはその後の合意形成の過程で最終処分場の実現は難しいだろうと思っていました。


土屋  それはもう少し詳しく聞かせてください。


雪丸  最初の調査に着手するのはそこの首長一人の意見で良いんですけど、そのあとのプロセスは数多くあって、住民投票だったり議会の議決だったりとハードルはかなり高くて、この町では最終的には賛成とはならないだろうと思ってます。


肥後  ただ、国は本当に困ってるから、一度調査を受け入れたらどんな手段を使ってもやってくるんじゃないかなぁと僕は思ってる。


前田  田中さんの公約は一人に30万円配るっていうのでしたからね。


  ああいう公約、選挙方法はこれまではなかったやり方なのよね。


肥後  ただ、田中さんのことは個人的には好きでしたね。


  俺も好きだよ。


前田  僕も好きでしたね。


土屋  へぇ〜。どういう人なんですか?


前田  真っ直ぐな人でした。国のことを考えて真っ直ぐな人でした。


肥後  僕は田中さんに「僕は田中さんには入れません」って言いました。


  おれもね。田中さんの頑張りには応援はするけど、票を入れる入れないは別だわ。って言った。(笑)


土屋  田中さんはこのあとどうするんですかね。落ちたわけですけど。


  この前聞いたのは、「今後どうするかは、決めてません。」って言ってた。当選したら、家族も呼んで住むとは言ってたけどね。4年前の選挙も出るという話だったの。


土屋  えっ?4年前も出るという話があったんですか?


  そうなのよ。それで、あのときなぜ止めたか聞いたら、あのときは現職の森田町長が引き続き出馬するということで、勝ち目がないとあきらめたとか。新聞とかにも立候補を表明した記事とかあったからね。


土屋  国会議員の森山さんの意向もあったんじゃないですかね。


雪丸  森山さんの事務所は田中さんの事務所にだけは応援を表明しなかったらしいですね。農水大臣にもなっているし、農業関係者の手前、応援はできないんじゃないですかね。


土屋  森山さんは、田中さんだけを応援してなかったのですか?


  そうなんだけど、それはわからんよ。


雪丸  選挙も近いから。


土屋  なるほど・・・。それは面白いですね。


肥後  自民党の秘書の人と話したときは、まずは不利な状況を作って選挙を戦わなければいけないんだよって言われましたね。わざと悪い情報を流したりするって、そのときすごい考えられてるなぁと思いました。


  そういう意味では田中さんも、出陣式とかも辺塚から始めて、そうすると地元の人たちはこんなところから始めてくれて応援しようってなるわけよ。 確実に票につなげるっていう行動をしててすごいと思った。実際、努力してたよ。佐多
からずっと歩いて、おじいちゃんおばあちゃんから話を聞いてね。想像だけど、2,300は建設業から入ったとは思う、けどそれ以外に300票集めたっていうのは本当にすごいと思った。


肥後  鹿屋の人って最終処分場が南大隅町に来るかもっていうのはどう思っているんですか?


雪丸  食品メーカーとか一次産業とかは反対してるよね。


  誰とは言わないけど、なにがなんでも絶対に反対。って人もいるけどね。


土屋  それは本当にだめだと思いますね。そして、さっきの雪丸さんの話でいうと、ぶっちゃけ鹿屋の人たちは賛成派はかなり多いんじゃないかな?って思ってますね。若い人たちは関心ないし、飲食店含めてサービス業の人も多いですからね。公には言えないけど賛成みたいな。


雪丸  あと、南大隅町は農業の町だからって言いますけど、農業は後継者が本当にいなくて先がないなっていうのが、地元の実感としてあるんですよね。今の状況で後継者もいて、基幹産業としてやれているか?というと後継者もできていない状況で、反対っていうのも正直よくわからないですね。そういうことも含めて議会や選挙で議論する必要があると思います。が実際の選挙になると賛成、反対の乱暴な話にしかならないのが問題だと思います。


土屋  農業を代表する一次産業を反対の理由にするのも微妙なところがあって、鹿屋もカンパチがんばっているんですけど、料理人として見ると、普段使いには僕もおいしく食べますが、ここにしかない高級食材かというとそうではないですからね・・。


前田  土屋さん、垂水のカンパチ、鹿屋のカンパチ、そして根占の黄金かんぱちを一緒に買って冷蔵庫に3日いれてから食べてみてください。黄金かんぱちは臭みが全然違いますよ。


土屋  それは、外海に近いからでしょ?すごくわかるよ。けど、僕が言いたいのはその前提で、食材っていうのは高級路線だけではなくて、例えば、東串良町はピーマンが有名ですけど、別に無農薬とか有機とかではなく、大規模に作っててそれが日本中のコンビニとか外食産業の食を裏から支えていたりする。雇用も生んでるしね。こういうのを良いとか悪いとかを簡単には言えないですよね。


肥後  日本の農業を支えているのは大規模農業なんですよね。有機農家の割合は、約0.4%しかない。

パノラマパーク西原台から
パノラマパーク西原台から


土屋  いま雪丸さんが言っていたように、跡取りがいない産業が今後も反対を継続してやっていけるかというのは、本当に難しい問題だと思います。
これは個人的な意見になるのかもしれませんが、南大隅町が本当に反対をしたいのであれば、この町が海とか自然とかで人が呼べるようなものがあり、「こんないいところなのに最終処分場を作るの?」みたいなことを用意できるかどうかしか
ないと思います。


肥後  それは、まったく同意見で、選挙のときにずっと僕らで話していて、そこに行きつきましたね。


雪丸  佐多の方とか見ていると本当に人がいなくて、10年で2000人、人口が減ると言われている状況で、そうなると僕たちが60歳では町全体で2〜3000人くらいの人口になるんじゃなかと言われてて、そんな状況で自然が大事っ
てことしか言ってなくて、これは田中さんも言ってたんだけど、自然を守るのにも人と金が必要ですよ、と。それはそうなのかなって思いますね。
僕は最終的には持ってこないで自立できれば最高って思ってるんだけど、聞く耳を持たずにアレルギー的に反対をする人たち、議員は、誘致するよりももっと町が持続するビジョンを示さないといけない。しかし、その議論・ビジョン作りとかもやってないわけで、議会はもちろん、今日みたいな飲み会ですら町の話なんて全く起きないから、そういうことが必要だと思いますね。例えば、調査をするのにこれだけのお金が入ってくる、これを使ってこの町をこうしようとかでもいいし、あるいは世界に売れるような有機農業を町をあげてやっ
ていこうとかでもいいんだけど、そういう話が全くない。
このままでは、将来的には鹿屋に吸収されるのかな?と思ったりします。


  この町は日本でも高齢化率は一番に高いくらいだから、逆にそれを生かすべきだと思う。日本全体の20年後を行っているわけだから、良い悪いは別として色んな政策を試す特別区として生きる道があるのではないかと思う。例えば、年寄
りは土に触れば元気になるから、農作業をあるていど本格的にしながら生活するような老人ホームをつくり、それを国が補助するというようなものができないか。これだけじゃなくて、外国人を含めて移住を大規模にすすめたりと、何かしら
の新しいチャレンジをできる町にしていけばいいと思う。第一次産業の問題も、国が率先して後継者を育成するような仕組みづくりを実験してもいいのではと。これらのことを錦江町と南大隅町でぜひやらせてくださいということを訴えることが、もしかしたら風評被害につながるから処分場は受けられないというような話にもなると思う。 けど、こういうことは行政側ではなかなか思いつきもしないだろうし、言うこともできないのかなぁ。


前田  賛成派の人たちも、安全、安全というだけじゃないくて、例えば、もし何か事故があったら、将来世代にわたってこれだけは補償するというようなことを提示するくらいも必要なのかなと、福島の事故を見ていると思います。


土屋  僕は、前田さんの意見に反論するわけじゃないけど、さきほど森田町長の出馬のときの話もありましたが、昔は核政策というものがそれほど悪いイメージはなかった、多くの知識人も含めて未来のエネルギーだという見方が多かった。そして、もうひとつは昔の日本はとにかく金があった。けど、今はその金がないんだよね。
そして、、僕個人の意見ですが、最終処分場を受け入れざる負えないんじゃないかと個人的には思っています。ここ数年の自民党のやり方っていうのは地元の合意を丁寧に長い時間をけて説得するようなことは、特に安倍さんになってから全くない、本当にひどいやり方をするようになってます。沖縄や馬毛島もそうで、政府からすると反対をしている人たちは、単なるクレーマーであり合意をなんとか得るような対象と思っていない。例えば、昔、野中広務っていう政治家がいたけど、彼は沖縄の基地の受け入れに際して一か月くらい地元で飲んで、説得して回ったというようなことをどっかで読みました。昔の政治家はそんなことをしていた。今回、田中さんがどんな想いだったのかはわからないけど、国からしたら、南の過疎の町がどうせ受け入れるしか生きる道はないだろう?というような態度でしかない。
そして、ここまで言って私はこうも思っていて、他の周りの地方自治体も金がないから、そこまで来たらみんな自分たち独自に考えて行動するところがでてくると思う。その中には、きっと全国規模で成功する町もぼんぼん出てきて、そのときに南大隅町は最終処分場を受け入れていることによって、何も考えない、何もできないっていう状況になっていて、すごくダサいことしてるなってなる可能性もあると個人的には思います。


肥後  それは、僕たちもずっと話していて、それには大賛成で同じ意見です。


  農業が補助金づけで何もできなくなるようなことと同じような感じよね。


肥後  それは世界的な動きとも逆行してて、SDGs じゃないけど、この田舎で農業や漁業で生きてきた僕自身の生き方を否定するようなものです。確かに金で裕福にはなるのかもしれないけど、そこからはクリエイティブな発想とか仕事とかは生まれない。僕たちはいまこの自然をつかってコミュニティをつくり生きていくことを考えるときにあると思います。
それが処分場を受け入れることによって金が入ることに、自分たちの特性、生き方、強みを失うことになると思います。それが魅力的な町をつくり、魅力的な人間を生み出すと考えると、子供たちのことを思うと受け入れることはできないなと強く思いますね。
もちろん、誘致したほうがいいという人がいてもいいと思うし、それならそれでいいのかもしれない。正直なところわからないですよ。ただ、僕の反対の意見の根拠はこんなところですね。生き方としてこういう生き方を子供たちに残したいと思ってますね。


土屋  肥後さんはまた選挙に出たいとかはないんですか?


肥後  今はないですね。


前田  若い人が出るのは大事ですよ。


土屋  大事だと思いますが、それと同時に、市議でも町議でも本来の機能をはたしていないとは思いますね。これは例えば、垂水の新庁舎が問題になりましたが、行政がしたいことを止める方法がこの国の制度にはないんですよね。迷惑施設から、ここらへんの小さな道路ができることまで、行政が好きにできるというのは問題ですよ。(詳しくは「来るべき民主主義」國分功一郎)


  この町はとくにそうよ。(笑)


土屋  そういう観点を精査する機能は選挙にはないし、市民への説明会や第三者委員会みたいなものも機能していない。


前田  自分たちも知り合いだからというような理由で政治家を選ぶのもありますからね。


  その意味でも、今回やったように地味だけど、「政策を聞く会」みたいなことをやることには意味があると思う。続けなければいけない。


前田  例えば、議会も夕方からはじめるとかしないといけないと思います。


土屋  いろいろな考えや意見を住民は持っていて、議論の場があればこうやって話し合えるというのを僕たちのフリーペーパー「やうやう」では示したいし、そこにやる意義があると思っています。
よかったら、僕たち同世代みたいですし、定期的に会いましょうよ。東さんの家で。(笑)大変なのは奥さんですけど!(笑)



座談会参加者(南大隅町在住)
 東
 肥後
 前田
 雪丸


写真・Big_South_Edge (Instagram)


編集長土屋と田中けい氏との対話

【2023/09/24配信】

大隅半島に最終処分場は必要なのか?田中けいさんと考える政治、大隅、そして日本。#人はなぜネット右翼に魅了されるのか?

【2024/10/21配信】

第七回 NON-KATA 「日本の政治とローカルの関係」ゲスト田中けいさん

【2025/03/21配信】

Road to 市議会議員『○○さん、おれ市議会議員なったほうがいいすか?』#3 田中けい


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