(16号掲載)
私は鹿屋市在住、東京の会社に勤めているフルリモートの会社員である。今年(24年)の5月に鹿屋市にUターンしたのであるが、東京に約10年間暮らしていた。だから、少しは都会の人たちを知っている。春になれば、鹿屋を離れ都会で暮らす人たちもいるだろうから、都会の人たちについて、私の知っている範囲でお伝えしようと思う。
一般的に、都会の人は冷たくて、地方の人は温かいということを、まことしやかに伝え聞くが、決して都会の人は冷たくないと思う。私が、見知らぬ人に助けてもらったことが複数回あるからだ。中でも忘れられないのは、残業帰りの夜9時頃、自宅最寄り駅近くに具合が悪くて座り込んでいたときのことだ。
その日は血圧が極端に下がっており、立てば眩暈に襲われるから歩くのが困難だった。まず、見知らぬ若い女性が大丈夫かと声をかけてきた。私は意地を張って「大丈夫」と答えたのに、明らかに具合が悪い私を彼女は放っておかなかった。水を買ってきてくれて、私のそばを離れずに背中をさすってくれていた。
そうこうしていると、見知らぬ若い男性が声をかけてきた。女性が状況を伝えてくれている。すると、その男性は医師であるとのことで、駅直結の大きなビルには警備員など手伝ってくれそうな人がいるから、移動しようと提案してくれた。
移動先は私の帰宅経路で、毎日通るビルだ。私はふらふらしながら男性と女性に支えられながら5歩だけ歩いては具合が悪くて座り込むを繰り返して、ようやくビルのソファーに横たわった。
気がつけば、ビルの警備員もやってきて、私の世話をする輪に加わっていた。これまでもこういう症状はたまにあり、2時間じっとしていたら良くなることを私は知っていた。見知らぬ男性も女性も仕事帰りであろうし、そんなに早い時間でもない。一刻も早く私の世話から解放してあげたい。ビルの警備員にとっても、本来の仕事ではない気がする。だから、しばらく寝ていれば大丈夫と彼らに伝えたのであるが、結局、ビル所有の車いすに私を乗せ、自宅の玄関まで3人が送ってくれたのだ。そして、颯爽と帰っていった。連絡先を聞く余裕が無かったから、お礼のしようもないが、本当に世話になった夜だった。
少し都会の人のイメージが変わっただろうか。しかし、こういうエピソードだけではない。なんせ都会は人が多いのでびっくりするような言動をする人と遭遇するのも、また事実なのだ。
あれは、JR山手線に同僚と二人で乗っていたときのことだ。やたら大きな声でブルースを歌っている70歳ぐらいの陽気なおじさんがいる。昼間であったのだが、どうもお酒も飲んでいるようだ。こういうときは「触らぬ神にたたりなし」。やばい人にあったら目線を絶対に合わせずに、ひっそりとやり過ごすのが都会の暗黙のルール。ご機嫌に歌い続けるおじさん。そうこうしているうちに、おじさんは陽気な声で一言放った。「この車両はブスばっかりだな‼」と(笑) 不意打ちだ、あまりにも陽気に言うのでうっかり笑ってしまった。私の同僚も同じタイミングで吹き出していた。私は「ブスですみません」と笑いながら思った。そのおじさんは、楽しげに歌いながら次の駅で降りた。おじさんが美人の多い車両と出会えますように(笑)
このように、様々なタイプの人と遭遇するのが都会だ。巷で話題の駅構内でわざと女性にぶつかってくる「ぶつかりおじさん」にも遭遇したこともあるし、親切なおばあさんと思いきや、一〇〇〇円寄付する状況に追い込まれていたこともある。このおばあさんのお話はちょっと意外性があったので次の機会にお話ししたい。
あまり怖がりすぎることもなく、かといって、身を守ることも忘れないのが都会の人と関わるコツ。でも、よく考えたらそれは地方でも一緒なので、都会の人、地方の人という区分がそもそも違うのかもしれない。
文・谷村 亜希子 (たにむー)
コメントを残す