鹿屋のキーウィを探せ

21号掲載

『やうやう』読者の皆様、飛べない鳥・キーウィをご存知だろうか。鹿屋の街を、キーウィが歩いていたらびっくりする? 雀や鳩やカラスではなく、キーウィが歩いていたら・・・想像しながら、お読みください。
六月某日夕刻の出来事である。ホテル太平温泉からうちの社長を出先へ送る途中、車の中から不思議な鳥を見かけた。助手席に乗っていた社長は、この鳥を見かけるやいなや雄叫びを上げた。今日、お昼過ぎにホテルこばやしの前でこの鳥を見かけたのだと大騒ぎしている。お昼過ぎにホテルこばやしの前にいたその鳥は、数時間後の夕方、道路向かい側のワインバー英蔵の前にいた。というと、まるで不思議な鳥がワインバー英蔵の開店を待っているかのように聞こえるかもしれないが、そうではなく、ワインバー英蔵へ向かうように、車道の白線の上を歩いていた。鳥なのに、明らかに歩いている。とぼとぼと。それも、何度も書くが、車道の白線を辿るように・・・。『やうやう』読者の皆さん、ワインバー英蔵の前の道路を思い浮かべてみてほしい。広い道路ではない。しかも、カーブだ。車道の白線の上を辿るように歩いているなんて、いつ、走ってくる車にはねられてもおかしくない状態なのだ。ちょっと危険・・・いや、かなり危険! 交差点で信号待ちの間、社長は「この子は鳥なのに飛べないんだよ。歩いてここまで来たんだよ。」と訴える。私に訴えられても・・・。普通に空を飛べる鳥がホテルこばやしからワインバー英蔵に移動するなんて一瞬のことだと思うが、察するに、この不思議な鳥はホテルこばやし側からゆっくり歩きながら、車道を渡って反対側に移動したのだろう。もしかしたら、途中寄り道したり、遠回りしたり、最短距離を移動したとは限らないが、本当にこの子は飛ばないで歩いてきたんだと・・・なぜかそう思わせる不思議な雰囲気を醸していた。そのときは、社長を目的地まで送り届けなければならなかったので、とりあえず、その場を去り、帰りにまた同じ道を通ったが、不思議な鳥はもうそこにはいなかった。
ふと、飛べない鳥=キーウィ⁈と思い、調べてみた。キーウィは絶滅危惧種で、日本には存在しないことがわかった。しかも、キーウィの画像は、さっき見かけた飛べない鳥のそれとは、全く異なっていた。
私が目撃した飛べない鳥の情報をここで開示したいのだが、車の中から見かけただけなので、信憑性はかなり低い。私の、それもあまり優秀とはいえない脳の記憶力に頼って、情報を集約すると・・・体長三〇センチメートル、体の色はグレー、くちばしが大きい。足は長くて、足首が黄緑色をしていた。素人がネットで調べる情報だが、それでも『チュウシャクシギ』とか『ケリ』という鳥類の名前が挙がってきた。『チュウシャクシギ』は全長四二センチメートル、私の記憶の中の不思議な鳥よりひと回り大きい。風貌もかけ離れている。『ケリ』は全長三五センチメートル、チドリの仲間で、細く長く黄色い脚を持つ・・・。そうだ!あの子も脚がまるで黄緑色の靴下を履いているようだった。この黄緑色の足元も、シギよりはケリの方に近い気がする。小動物園から逃げ出したのでは⁈とも思ったが、ネットにはそのような情報も挙がっていなかった。
どこから来たのか、なんという鳥なのか、あの不思議な鳥は、私の中では完全に飛べない鳥として、名前はキーウィとインプットされた。私は今もキーウィのことをときどき思い出す。宮崎駿作品のポニョが人間の女の子になったり、金魚になったりする、あんな感じで、実は私が見かけたあの子も、あのときはたまたま鳥の格好をしていたが、元々人間なのではないか。何か訳があって、ときどき鳥になるのではないか。あのときは、自分が今、鳥になっているということを忘れて、白線を辿って車道を歩いていたのではないか。あるいは、何か悩みを抱えていて、我を忘れて、とぼとぼと歩いていたのだろうか。
ワインバー英蔵の前にいたのは、あながち間違いではなく、カウンターでひとり飲みたい気分だったのかもしれない。ワインバー英蔵のドアを開けた瞬間に人間の格好に戻り、もしかしたら、ワイングラスを傾けていたかもしれない・・・。
新しい情報を探すのは止めようと思う。不思議なお話のままで私の心の中にしまっておこう。
それはさておき、今回はホテルこばやしさんとワインバー英蔵さんへ、広告費を請求しようかしら(笑)


文・上井七穂
ホテル太平温泉で働きながら、ライフワークとして自己尊重感を高めるトレーニング『ほめ日記』のインストラクターとして活動しています。ホテルの日常や「ほめ日記」のことをお伝えしていきます。

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