今年の映画のあれやこれや

 12/21(土)にsimetubeというYouTube配信で複数名でベスト10〜30を持ち寄って今年のコンテンツのベストハンドレッドをしました。
 ベストハンドレッドというのは、もともとは批評家のさやわかさんが毎年、今年のコンテンツのなかからベストハンドレッドを決めてイベントと動画配信で発表しているものです。映画からアニメ、ゲーム、音楽とジャンルを縦横無尽にランキング付けして、発表していくスタイルです。
 おもしろいのは、始めはさやわかさんだけだったのが、触発された視聴者が各自で独自にベストハンドレッドをつくって発表するようになったことです。今回のsimetubeでのベストハンドレッドもその流れにあたります。ただ、今回が少し違うのは、通常はひとりでベストハンドレッドないしはベスト○○を選ぶのですが、今回は総勢6名でお互いのベスト10〜30を持ち寄ってベストハンドレッドを発表したことです。なので、ひとりで発表するときは、ベストハンドレッドのなかに何かしらの評価軸や一貫性がみえるのですが、大勢ですることでお互いの評価軸や一貫性が混ざりあい、いい意味で雑多な発表になったことです。
 例えば、今回、ぼくは映画に絞ってベスト10を発表しました。ランキングのなかで他の発表者と何個か作品が被ったものがあったのですが、同じ作品でも発表者によって全然違う見方をしていることがわかり、非常に興味深かったです。ですが、本来、コンテンツというものはそういうものではないでしょうか。世間でいわれている名作やすばらしいとされている作品はそのような多様な解釈を呼び起こすものなのだと思います。
 さて、今回ぼくはさきほど書いたように、映画に絞ってベスト10を発表しました。ここでは、全ての作品はあげませんが、今年の傾向としては、ノンフィクションや史実、実際の事件や事故を下敷きにしてつくられた作品が強かった印象です。例えば、ぼくのランキングでいえば10位の和歌山カレー事件を取り扱った『Mommy/マミー』や9位のコロナ渦の事件を題材にした『あんのこと』、8位の1979年戒厳令下での韓国のクーデターを扱った『ソウルの春』などです。特に『ソウルの春』は、最近、韓国で実際に戒厳令が出たこともあり、非常に時事的な映画になっていると思います。
 最後に来年はどういう傾向の映画が出てくるのか予想して終わりたいと思います。来年は今年に引き続き、ノンフィクションや史実、実際の事件や事故を下敷きにしてつくられた作品が強いだろうと思われます。その理由は色々あるとは思いますが、やはり昨今の世界で起きている戦争の影響があるのでしょう。そして、だからこそ、ノンフィクション的な題材を扱ってフィクションを描いているのだと思います。過酷な現実があるからこそ、その現実との境界をあいまいにさせたり、現実を相対化させる映画が多いのではないかなと予測しています。
 では、来年もそのようなノンフィクションや史実、実際の事件や事故を下敷きにしてつくられた作品だけが強いのでしょうか。ぼくは決して、それだけではないと思います。ぼくは今回ランキングには入れませんでしたが、山田尚子が監督を務めたアニメーション映画『きみの色』はひとつの可能性になるではないかと考えています。
 哲学者の東浩紀が最近、頻繁に平和について言及するなかで、政治に捉われない場所をつくることを尊重するべきなのではないかと述べていました。簡単にいうと平和について考えようとするときに、政治や戦争に反対するというやり方では、政治や戦争に取り込まれてしまうのではないか、だからこそ、政治や戦争に全く関係のない場所をつくる必要があるのではないかという議論です。 
 そのような前提をもとにすると、さきほどあげた『きみの色』は全く政治にも戦争にも関係していない映画になっています。フィクションの世界に徹底しているともいえます。全く何も起きないといえば語弊があるかもしれませんが、学園祭で演奏するぐらいでほぼ何も起きない。これを現実を反映していない映画だと批判することもできるかもしれませんが、ぼくはこれこそが大事なのではないかと思うのです。全く現実世界を反映していないからこそ、ひとはそこに自由を感じることができる。実際、そこで描かれている背景やキャラクターの動きはのびのびと自由を謳歌しているように映ります。
 少し脱線したかもしれませんが、来年は今年と引き続き、ノンフィクションや史実、実際の事件や事故を下敷きにしてつくられた作品が強いだろうと思うと同時に、山田尚子の『きみの色』のような作品が増えていけばいいなと思います。最初にふれたsimetubeというYouTube配信でのベストハンドレッドのなかでは、ここで書いた映画作品以外に語っているので、興味をもっていただけた方は他の方の発表も含めてみていただければ幸いです。

simetube
『みんなでベストハンドレッド2024』

文・hideaki

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