(18号掲載)
仕事から帰って来てからスマホが手放せません。動画を見るのをやめれません。時間がもったいないと思いながらついついずっと見てしまいます。どうしたらやめれますか。
40代・女性
回答
ご相談ありがとうございます。仕事から家に帰ってもずっとスマホを見てしまい、無駄な時間を過ごしている自覚があり、そのことに罪悪感と後悔を感じているのですね。質問者さんの気持ちはとても分かります。
スマホがないと過ごせない、いつの間にか時間が経過しているなどの「スマホ依存」はいま社会問題とされていて、利用者の8割ちかくがその自覚があるといわれています。特に子供たちへの影響は問題視されていて、自然の中でハイキングやバーベキューなどを楽しみ依存から脱却するための「オフラインキャンプ」なども盛んです。
スマホの危険性についてはさまざまな人たちが発言していて、中にはスマホやSNSなどのサービスを運営しているITエンジニアたちが、ユーザーを依存させているのに、自分の子供にはスマホの使用を制限させているなんて話もあります。この問題をあつかった代表的なものはアンデュ・ハンセン著「スマホ脳」でしょう。これは世界的なベストセラーになった本で、スマホが睡眠障害やうつ、ストレスなどを引き起こし心身に悪影響を及ぼすことがわかってきたという内容です。具体的にはスマホは脳に対する報酬システムをうまく利用したデバイスであり、それは「ドラッグ」と同じだとこの本では書かれています。特に子供を持つ親は、一度お読みになるといいかもしれません。
スマホの危険性を知れば誰でもその対処ができるかと言えば、そんなに簡単な話だったら苦労しませんよね。外でハイキングしても無意味でしょう。私たち人間はスマホを触りたい欲求に抗うことは極めて難しい生き物なのです。
人間は他の動物と違って、社会的な生物です。感情だけでは動いてはいません。しかし、理性だけでも生きてはいません。相談者さんのようにスマホなどやめて、もっと有意義な時間を過ごしたいと理性ではわかっていても、感情が追いつかないのです。
別の言い方をすれば、理性と感情の相克(対立するものが互いに相手に勝とうと争うこと)が私たち人間には長い進化の過程で、OS(基本ソフト)として備わっています。知識や経験などを得て、それを合理的に粛々とこなしていけば人生は安泰で成功間違いなしなのですが、多くの人間がそれができません。それはこのOSの相克があるからです。
心理学に二重過程説というものがあります。これは人間のOSにはシステム1とシステム2がありそれがお互いに邪魔をしているというものです。
・システム1・・・人間が動物としての本能(食べたい、酒飲みたい、休みたい、セックスしたいなど)で、無意識で動き、ストレスも低い。
・システム2・・・知識や経験で得た情報(食べ過ぎはよくない、アルコール依存症になる、勉強しないといけない、不倫はよくないなど)で、意識的に制御しないと動かないので、ストレスも大きくできるようになるまで時間もかかります。
システム1は、私たち人類がサバンナや森で少人数で生きていたことから培ってきたものです。これはなかなかやっかいなもので、基本的に制御できません。例えば、猛獣に襲われる環境にある場合はちょっとした変化に敏感でなくては命をなくします。PCやスマホの通知に反応してしまうのはこの名残です。
さらにやっかいなのはSNSです。人類は進化の過程で少人数ではなく、集団で狩りや農業をして生きるようになりました。そうなると、いわゆる村八分にされては生きていけません。そのため仲間からの評価にとても敏感になりました。そのことが私たちのOSに刻まれており、これがSNSを気にしないでいられない理由です。つまり人間はもともと他人からの評価を意識しないで生きていけない動物なのです。
つまり、人間はシステム2だけで生きていければなんら問題がないのですが、システム1がまだ大きなウエイトを占めているので、これには抗えないのです。これを克服できたら誰でも東大でも一流企業でも入れます。
それでもなんとかアドバイスすれば、まずスマホの通知は電話の受信音も含めて基本的にオフにします。心配ですか?大丈夫です。人生で大事な情報がリアルタイムじゃないと困ることは6000回に1回くらいです。あとからの折り返し電話やメールでなんとでもなります。
次にスマホは「スマホ脳」でも書かれているように、システム1を利用して脳に報酬システムを与えているんだと自覚しておくことが重要です。(「スマホ脳」ではドラッグと同じだと書かれています。)無自覚に使わず「これは気を付けないといけないものだ」と自覚するだけで、スマホに対する姿勢も変わってくるはずです。
最後のアドバイスとしては、もう諦めてどうせならスマホを使って相談者さんの「罪悪感」を上書きすることをおすすめします。
例えば、読書。スマホで動画を見るよりずっと有意義な時間ですよね。もともと読書が好きな人はスマホなんかあってもガシガシ読んで行くのですが、そうじゃない場合はKindleの読み上げ機能がおすすめです。仕事終わりに読書となると疲れているし、すぐに眠くなると思いますが、Kindleの読み上げ機能を2倍再生くらいにしながら、目でも読むことで目と耳から本の内容を理解することに集中できて読書が進むと思います。これはある意味システム1を逆に利用してスマホを有意義な時間に使う方法です。さらに、動画をやめられないというのであれば、ネットフリックスやアマゾンプライム、ユーネクストなどの優良コンテンツを見ることをおすすめします。多くのクリエイターは毎日のように本を読み、1日1本は映画を見るなんて人は珍しくありません。そのことに罪悪感を感じたり、不安になる必要はありません。むしろ羨ましいくらいです。参考になれば幸いです。
回答者 鹿屋在住の人生相談のプロ
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