(16号掲載)
2024年12月14日

鹿屋市にある、日本で一番海が近い小学校を改築してできた宿泊施設、「ユクサおおすみ海の学校」は朝日がのぼり夕日が沈むまでの錦江湾の絶景を眺めることができる。夜には澄み渡った空気の中、都会では味わえない満天の星空が広がる。
そんなユクサだが、昨年の12月14日はいつもの様子とは少し違った。その日のユクサにはどこか祝祭の匂いが漂っていた。「海と肴と音楽と」と銘打たれたイベントがここで開催されていたからだ。音楽と食事とお酒、そしてスタッフの心温まるサービスによって、日常からほんの少しだけ離れた特別な時間を来場者に届けた。そんなイベント「海と肴と音楽と」にやうやうの編集部も参加してみた。
夕方、校庭には焚き火が焚かれ、その周りには人々が集まり始めていた。ひんやりとした風が頬を撫でる中、湯気を立てる豪華な食事や芋焼酎のお湯割りが、冷えた体を温める役割を果たしている。そんな穏やかな光景の中、主催者たちの心遣いがひときわ目を引いた。特に焼酎を携えた大海酒造の山下さんは、どこか誇らしげに来場者に焼酎の魅力を語りかけながら焼酎を振舞っていた。
夕陽が沈みかける頃、音楽が空気を振動させ、そのスウィングが人々の心をゆらす。校庭ではJAZNIC PARKの演奏が始まったのだ。歌声は軽やかで、どこか懐かしさを感じさせるジャズナンバー、彼らは2018年に結成されたオルガニッククインテットで、大隅半島にてJazzを中心にジャンルレスに様々な音楽を届けている。この夜も、彼らの音楽は、子どもたちの笑い声や犬たちの鳴き声が合わさって、校庭全体をまるで一つの音楽空間につくりあげていた。



完全に日が沈むと、校舎内へと舞台は移り、そこにはまた別の空間が広がっていた。ビュッフェスタイルの食事は、ユクサのスタッフが釣った新鮮な刺身、ハム、そして大海酒造の焼酎。この土地の恵みを惜しみなく使った料理たちは、それぞれが小さな物語を語るようだった。
特に印象的だったのは、大海酒造の山下さんによる焼酎講座だ。林檎やお茶を使った焼酎、そのユニークな製法や彼らの焼酎のパリでの評価について語られるたびに、来場者たちは目を輝かせて耳を傾けていた。そして、彼の話す言葉の一つ一つが、この土地の自然や文化に根ざしていることを感じさせた。
参加者たちは皆、どこか解放されたような表情をしていた。鹿児島市から来たキャンプ好きの夫婦、ネットで見かけてこのイベントに足を運んだ女性三人組。それぞれが別々のきっかけでここに集まり、焚き火を囲みながらはじめて会った人々と自然に言葉を交わす。その光景には、都会では得難い人と人との距離の近さがあった。
JAZNIC PARKの演奏と、DJがかける音楽は再び人々を惹きつけた。特にJAZNIC PARKボーカルの彼が見せた輝きには、多くの人が惹かれたのではないかと思う。彼の姿に、自分たちの生活の中にもこんな輝きが隠れているのではないかと考えさせられた。
この夜の終わりに、宿泊者たちは黒板にメッセージを残していった。「楽しかった」「また来たい」「感謝の気持ちでいっぱいです」それらの言葉は、主催者たちが届けたかったものが確かに届いた証拠だろう。
ユクサおおすみ海の学校が生み出したこの夜は、ただのイベント以上の意味を持っていたと思う。それは、地元の文化や自然の魅力を再確認し、日々の忙しさから解放される時間。誰もが主役で、誰もがその場所に必要な存在だった。
静かに終わりを迎えたイベント会場を後にしながら、ふと思った。この場所にはまだ多くの物語が眠っている。そして、それを紡ぐのはここに集まる人々一人一人だ。海と肴と音楽と、その三拍子が響き合う夜。きっとまた戻ってきたいと思う場所が、そこにあった。
次回の開催を多くの人が望んでいるのは、間違いないだろう。

文・やうやう編集部
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